鈴木章先生の研究内容は、有機ボロン酸というホウ素を含む有機化合物をクロスカップリング反応という化学反応に利用したことです。そこで、このクロスカップリング反応がどういった化学反応なのかを説明します。
私たちの住む世界には、数え切れないほどの化学物質が存在しますが、その多くは有機化合物といって、炭素、水素、酸素、窒素などの数種類の原子から構成されています。その中でも炭素は有機化合物の骨格となるような元素で、炭素同士の結合をどれだけ伸ばすか、またはどのように枝分かれさせるかといった分子の構造設計次第で様々な性質を持った物質を作ることが出来ます。そこで、2種類の有機化合物を用いて新たな炭素同士の結合を作り、新しい有機化合物を合成するのがクロスカップリング反応です。
鈴木先生の研究以外でもクロスカップリング反応は報告されていますが、鈴木先生の研究で画期的な点は、産業面への応用がしやすいという事でした。鈴木先生が着目した有機ボロン酸は空気や湿気に対して安定性が高いため、長期間の保管が可能です。また、結晶性が高いため、粉末のように大気中に飛散することが少なく、大気汚染や作業者への健康被害も少ないといえます。そして、反応の副生成物となるホウ素化合物も水溶性が高いため、人体に有害な溶液を使わなくても目的の物質を取り出すことが出来ます。
様々な物質を自由自在に合成できるという点だけでなく、運用面での利便性、安全性にも優れていたことから、鈴木先生の研究は幅広い分野で実用化され、私たちの生活を豊かなものにしているのです。