野依良治先生の研究分野は有機化学という、我々生物の生命活動にも密接に関連した分野で、その中でも特にキラル触媒という物質を利用して、不斉合成という反応について研究されています。そこで、不斉合成という技術について説明します。
例えば、私たちがプラモデルを作る時、右腕は当然、左肩ではなく右肩につなぎ合わせます。しかし、化学反応の世界はそう単純ではありません。分子は我々人間のように意思があるわけではないので、ある分子に対して、別の分子が全く正反対の方向から接近して反応しようとすることがあります。すると、右手と左手のように、鏡に写したもの同士のような、二種類の物質が出来ることになります。このような二種類の物質を光学異性体と呼びます。光学異性体は一方は生物にとって有益であり、もう一方は毒になるといったことも多く、この作りわけは非常に重要です。この光学異性体のどちらか一方を選択的に合成する技術が不斉合成です。
野依先生の代表的な研究として、ガムなどの香料としても広く知られているメントールの合成を工業的に行った事が挙げられます。実はこの不斉合成は、我々生物の体内では数多く行われています。つまり、不正合成の研究が進むことによって、香料の他にも、医薬品や農薬などの生理活性の高い物質を効率よく作ることが可能になったのです。